恩田陸『Q&A』リアルタイム感想その4

恩田陸『Q&A』幻冬舎、2004

進度

昨日読まなくて、今日は田中徹也、脚本家の二章を読んだ。分けて投稿する。

田中徹也

三十九歳。Mの顧問弁護士チームの元一員。この人もまたよう喋ること。瞳は鏡、自分の見るものには感じていることが反映されるというか、田中徹也は出来事や自分への視線を自分の心内に突き付けてしまうような感じがした。真面目なのかな、真面目なやつは殺そうなんて思わないけど。根が正直者で罪悪感から逃れられないため自分の中の犯人要素を意識して勝手に犯人役を演じているね。質問者に対しては分析、把握が目的としか言っていないのに無感動な学術的な組織だと決めている。これは自分が顧問弁護士として事件からあくまで法的な、Mが有利になる材料を見つける立場だったから。無表情な目も自分たち顧問弁護士の作業として事件を事務的に処理する視線を反映しているのかも。殺そうとしていた人がこっちを見て笑ったと感じるのも、殺して笑う自分を見てしまったんだなあ。

去年911があったということで、事件の日は2002年2月11日で確定した。911にしてもこの事件にしても、惨事にスリルをもって夢中になり、次の事件が起こればそっちに向かい、当事者や事件のことを綺麗に忘れる。一億総マスゴミ。梨泰院の事件とかね、そうしたくないけどね。笠原久芳へのアンチテーゼでもあるのかな。そして田中徹也も、医学ノンフィクションを読むのが趣味で、下手なミステリーよりも面白いと明らかに実在の事件を愉しみとして消費している。こーれめちゃくちゃ上手いよなあ。結局自分から見た遠さの問題でしかなく、田中徹也自身が事件を娯楽として使い捨て忘れる人たちの一例として示される。リアルな事件の真相を探った記録たるこの『Q&A』に夢中になっている僕たち読者も……。

監視カメラの描写があることで客観的な(映像を主観的に見て主観的に語ったにすぎないが)情報が出てきた。麻生沙耶佳は可愛いんだね。もしそのことが彼女の不幸を呼び寄せているのだとしたらなんだかとても悲しい。他に言及されていた人では、三、四歳くらいの子供。この子が手に持ってひきずっていた赤っぽくて、だらりとしたものってやっぱりそうなのかな……。逃げている人は、無表情、外岡淑子も言ってた気がする。重要そうなのが、監視カメラを見ているかと思うくらいの高さの天井近くの何かに目を留めていた。エスカレーターでもないだろうから、何かがそこにあったんだ。あとは、やっぱり各フロアで何かが起こってるんだね。今だったら動画撮ってるだろうな。そう思うとこの作品、この世相でこの情報伝達社会でなければ成立しない。名作は、たとえば時代性のような必然性を帯びている気がする。

質問者

今回は男性。結構自分たちのことを話してくれる。何でも聞いてくるところは田中徹也の言うように十分誘導尋問だなあ。でも動揺してそうだったから悪意はなかっただろうけど。田中徹也が逆ギレして自白したとき、「なぜ」ではなく「どうやって」(物理的に無理でしょう)が先に出る辺り、事件の仕組みが知りたいというモチベーションが大きいような気がする。まあ動機も手段も同じようなものという気もするけど。最初に言ったように、犯人捜しではなく出来事の過程を把握したいんだね。

回答者

回答者の選出基準が興味深かった。自分の記憶の曖昧さに不安を感じていて、事件に無意識のうちに割り切れなさを感じている人物。自然と、Mでの事件に個人的な思いを抱えている人が選ばれる。まあ人間誰しも何かしら抱えているから、目立つ事件の当事者になった時に自分に対する何かしらの啓示とか報いとか考える人は多そうだけどね。特別な何かを見出そうとする気持ちは現実への割り切れなさの反映かな。