恩田陸『Q&A』リアルタイム感想その6

恩田陸『Q&A』幻冬舎、2004

進度

心のサロンの章を読んだ。今のところ1日1章ペース。

回答者

自宅を被害者が休める場所「心のサロン」として週三日開放している。田中徹也の章で監視カメラに写っていた女の子の母親。自分と娘と一緒にMに行った義母はあの日亡くなった。

序盤読みながらふーんって思ったのは、「連帯感」を強調しているけど悪い宗教にはちゃんと抵抗できること。危ういかと思ったらしっかりしてるなあというか。

事件については、脚本家の章でもあった、名前が付かないこと、原因が説明できないことのもやもやが関係者を苦しめることが被害者の口からも聞けた。「連絡会」と「被害者の会」が別々にあって、やはり事件の後も被害者は動き続けなくてはならない。この辺には素直に共感してつらいだろうと思った。このサロンの人がどういう人間でどんなに人を騙していても、被害者としてのつらい思いはほんとう。

で、今回も後半で隠された事情が明らかになる。人を騙してるんだね〜。行き着く先が娘をぬいぐるみにするような所業で言葉を失う。読み終わってすぐに読み返したら、最初にぬいぐるみのことを「今はほとんど私の、いえ、皆さんのもの」と言ってるんだね。上手いよ。お菓子や草木染め、売上は家主に行くのか持ってきた人に行くのか、どちらにせよ法律上あまりクリーンじゃないね多分。投資とかの儲け話は怖いなあ。ぶっちゃけ、こんなしっかり居を構えて金集めたら普通に逃げられないと思うんだけど、宗教法人立ち上げられるレベルまで洗脳できたらもうコイツの勝ちに近いだろうな。逃げられるように週三日なのかな。抱える苦しみは本物で感情のやり場は必要だから質が悪い。被害者の会ではミスったんだろうなあ、被害者の会がこのサロンの人が言うようなMからお金を取りたい人たちだとしたらなおさら見舞金は大事なお金だし、ね。

やり合いが凄いね、詭弁も詭弁なんだけど、気持ちだけはちゃんと頂戴したい。誤魔化そうとすることで本心を曝け出してしまう人、美しいね。コンプレックス丸出し。しかし本当に苦労していそう。生活費も子育ても介護も、一人で同時にやるしかなかった。詐欺や宗教で金を巻き上げていい理由にはならないけど。事件より前からとっくに自分を騙して生きている人間という感じ。

質問者

マスコミ系の人間。女性。サロンに取材に来た。デスクと言っているので、雑誌系かな?

温和に近付いてインタビューしつつ、物を売ってるところとか話題になっていて本尊になる予定のぬいぐるみとか、のっけからウィークポイントにジャブを入れている。利発そうな人。追い詰められたサロンの人がムキになったのは保身に加えて、自分より若くて賢い女が相手だから余計に許せないみたいな気持ちが、あったんでしょう。何より正しくいられることに勝る福音はない。サロンの人は加害者でもある人間が被害者になっただけなので、不幸自慢みたいで我ながら嫌な捉え方だけど被害者としての純粋性で他の人々とは連帯できないはずなんだ。そういう純粋な被害者の使徒として来たこの質問者は、サロンの人に効果バツグンだったんだろうな。

対談形式

前章から、名前のある関係者が回答して、調査している組織の何者かが質問する、という形式から離れた。脚本家とサロンの人の章では、なんていうかパワーバランスが対等になった。地の文の質問者側も主人公っぽさをもって自らの考えを話す。会話をしている感覚がこれまでより強い。

個人的に好みなのは以前までの回答者が語る形式、わくわくするから。でも、回答者の名前がなくなったことには意味があるように思う。これまでは、事件のあらましを傾聴することで、読者が質問者の立場で当事者になる段階。今は、世界の中の人物同士のやり取りを傍観することで、当事者となった読者がこのM事件のある世界、社会のあれこれを見る段階かな。普通の小説みたいに。といってもほんとにこのサロンの章までしか読んでいない時点の感想なので、次の章で普通にQ&A形式に戻る可能性も十分にあるのだけど。いつか戻るけどもう少しこの会話形式の章があるんじゃないかなー?と予想。