恩田陸『Q&A』リアルタイム感想その9

恩田陸『Q&A』幻冬舎、2004

回答者

タクシーの運転手。元調査組織の職員。普通に情報漏洩するじゃん。大丈夫かよ。でも前職の話する気ないしMに近付きたくないのに誘導されてるわけだから、かわいそうではある。几帳面な分、ちゃんと仕事をこなして回答者たちに共感してしまったのだろうか。いや回答者に念書書かせて質問してるんだしやっぱり変なこと吹聴しちゃいかんのだけど。リハビリとも言っているし、この運転手は自分の話を語るという体験が必要な時期だったのかもしれない。

前章で心霊、怪談の話を出しておいてのタクシー怪談風怖い話という並び、おもしろい。でも影か。僕、自動ドアに開いてもらえないことが結構あるんだけど影薄いのかしら。

質問者

会社の仕事に追われるサラリーマン。を装った、ある政治家の手の者。仕事を片付けたい焦燥感は特別なものではなく誰しも抱えていると思うなあ。

時代を嘆く声は一般的と言えるくらい多いのに、止められぬまま流されていく。自分のことでいっぱいいっぱいで、何か事件があってもテレビの向こうの出来事に思えてしまう。なんでだろうね。

雇い主の政治家先生は解散総選挙を心配するということで国会議員で、政府≒与党の有力者なのだとしたら、コイツが直接手下を使って口を封じようとすることは政府陰謀説の否定材料になるかもしれない。もし(一般私企業のショッピングモールでテロ実験を起こせるくらい有能な)政府が犯人だったら、こんな緩い処分の仕方ではなく退職時点でもっと徹底的に監視を付けて絶対に漏れないようにするような気がする。

事件

何度か出て来ていた陰謀論、政府の実験説が、相当な量の「真相」に触れ思考材料を揃えた組織の人から出ている。これ結構ショッキング。この運転手の人も本気で信じているわけではなく明言はできないと言っているが、結局、最初の方から明かされている形に落ち着く。万引きや液体のような同時多発のテロ的なしかし暴力や有毒性は無い行為がきっかけの、原因のない事件。という可能性がなんとなく確からしい。なんとまあ据わりの悪い。

質問者

この章の質問者ではなく、調査をしていた組織について。聞き取り対象がよくわからなくなった。この章ではPTSDの聞き取り調査、被害者やその関係者から聞き取ると言っている。もっと前の章では、そういう被害者や関係者からアンケートを取り、その中から選りすぐって特にもやもやした割り切れなさを抱いている人から聞き取っているイメージだった。回答者には普通に生活している人も多く、自分がなぜ選ばれたのか判然としない感じだったから。この章ではなんとなくもっと無作為に我武者羅に聞きまくる印象。さすがに別の団体ってことはないだろうけど、抽出した一つ一つの会話を注視するのではなくそれを何度も繰り返した質問者側の視点を通すとこんなに印象が変わるんだなあ。