『小泉八雲集』リアルタイム感想その1

小泉八雲上田和夫訳『小泉八雲集』新潮社、1975

進度

『影』の「和解」「衝立の乙女」「死骸にまたがる男」「弁天の同情」「鮫人の恩返し」を読んだ。

『影』雑感

小泉八雲が作った話のほかに、日本の物語集や説話集を下地にしたものもあるようで、素養のない僕からすると伊勢物語とか法華験記と内容的にあまり区別が付かない。いや、説話になるとメッセージ性があるので別物だとわかるのだけど、フシギさの具合が再現度高い。強いて言えば江戸時代の話があるので時代感が違うなあというくらいで、小泉八雲の造詣の深さが伺える。

和解

落語とかにもできそうな、人情噺っぽいところもある悲恋の怪談。恐ろしさもあるけれど、妻がけなげに待っていたからこういう展開になったのかなあと少し感動したりもする。

衝立の乙女

ピグマリオンみたいな話。菱川師宣の時代にはこの少女は本当に生きていたのなら、絵の少女は少女自身ではなく絵で、新たに生まれたことになるんだろうか。七生の愛を誓って、衝立は空のまま。なんだか素敵。少女がお酒を受け取るために出てくるって大酒飲みで変じゃんと思ったけど、アニメやマンガのキャラにガチ恋する人には朗報だよね。夢がある。

死骸にまたがる男

ガチホラーで、「和解」と背中合わせの世界線にも感じた。タイトルが怪異の女ではなくまたがる男になることにおもしろみがある。言われたことをやっただけなのに。捨てた女の復習を別の形で引き受ける、ある種の因果応報の物語なのだろうか。

弁天の同情

最後は少しわかりにくく感じた。少女が二人いる状態になりはしないか。文字には書き手の魂が乗り移るということでいいのかな。お話としては、きっと問題なくハッピーエンドなのだろう。恋が叶って良かった。

鮫人の恩返し

俵屋藤太郎というのは、俵藤太のイメージなんだろうか? 童話の浦島太郎のように、純粋な善意で困っている異界の住人を助けたら、見返りがあったというタイプの話。鮫人の涙が宝石になるアイデアも、先例があるだろう。鮫人というキャラクターはオリジナリティを感じた。なぜなのかわからないが伝承や説話においてサメはあまり使われない気がする。折角死を悲しんで流した涙なのに、テンション上がって泣いてくれって頼むのはなんか……物扱いしてる。まあ死ぬほどの恋の病なので気持ちはわかるのだけど。人間に鮫人が乱獲されなくてよかった。