恩田陸『Q&A』リアルタイム感想その10

恩田陸『Q&A』幻冬舎、2004

進度

新店舗の章を読んだ。

回答者

タクシー運転手の人の友人。前職を辞めたタクシー運転手の人に部屋を貸していた人。海外に単身赴任していて、戻ってきたところ。

妻に離婚された。それぞれに真実があるという一連の流れを汲めば、この人の視点ではたしかにわけわかんないけど、お互いのディスコミュニケーションがあったんだろうな。

ああ、ミドリカワ書房の曲に『それぞれに真実がある』があるけど、ミドリカワ書房の歌は小説っぽくて色んな人々の生活があるから『Q&A』と結構似てる感じがするわ。後半にぶっちゃけ話があったりして苦笑しちゃうところとか。あーだからこの本おもしろいと思うのかも。ミドリカワ書房おすすめですよ。Amazon貼っとこ。

話戻して、リセットかあ、よりどころがなくても生きていけることって幸せなのかどうかわかんねーな。

サイバーテロの話がおもしろかった。現在の意味とは若干異なり、大雑把に機械制御システムが壊れるということかな。この時代、コンピュータや携帯電話によって繋がってしまうんだって見方がすごく強いよね。今なら中の様子がわかったのにと思ったけど、もっともっと混乱や悲しみが波及していく可能性もあるかもな。一般人が誰でも(情報の)テロを起こせる時代になったと感じる。アンテナを張って観測範囲を広げるほどに主観的世界平和の脆弱性は増す。

質問者

外岡淑子。息災で何より。相変わらずなんか好きだなこの人。蝉の夢、見なくなったんだ。

どきどきするような素敵な人、ほんとの自分に変えてくれる人って、ある意味で、あの万引きの紳士が当てはまるような気がする。なんていうか悪い意味で。あの人が周囲の人々の本当の姿を明らかにしてしまった。

不倫やめるのえらいね、いやえらくないね。思えば家庭の崩壊を抱えている人が多かったな。

墓石から虫かごへ……。うーん破滅を予感させる。なにか大きいものによって簡単に、何気なく、私たちはつぶされるんだよという世界観が通底しているね。スケールが大きいと神とか大きなものの仕業ということにしないとやってられないもんな。それか他人とか、人間の集合意識のせいに。日本は明治維新や敗戦でリセットの経験があるから〜という話があったけど、災害大国という面からも肯定できる気がする。農耕民族として、どうにもならないこともあるという意識が漠然と薄く幕を張っている。

他の章とのつながり

今回、他の章のその後が色々と出てきた。事件から二年近く経って、総括のような感じもある。でも「忘れない」、としか言えないよなあ。世界にとっては小さな出来事で人々は次の熱狂へ進んでしまうけれど、新店舗になってもあったことをリセットできるはずもなく、わだかまりは残る。

タクシー運転手の人、悲しいね、タクシー強盗になるのかあなるほどなあ。関係者に自殺者が結構出てるのも想像できることだけど物寂しい。田中徹也、無理もないけどね。心のサロンは母親がうまく隠れてブレーンとしてやっている。理念はおかしいものではないから、いつか悪事が露見するまでの栄華は保障されそう。

 

 

屁のような

屁のような

Amazon

 

 

恩田陸『Q&A』リアルタイム感想その9

恩田陸『Q&A』幻冬舎、2004

回答者

タクシーの運転手。元調査組織の職員。普通に情報漏洩するじゃん。大丈夫かよ。でも前職の話する気ないしMに近付きたくないのに誘導されてるわけだから、かわいそうではある。几帳面な分、ちゃんと仕事をこなして回答者たちに共感してしまったのだろうか。いや回答者に念書書かせて質問してるんだしやっぱり変なこと吹聴しちゃいかんのだけど。リハビリとも言っているし、この運転手は自分の話を語るという体験が必要な時期だったのかもしれない。

前章で心霊、怪談の話を出しておいてのタクシー怪談風怖い話という並び、おもしろい。でも影か。僕、自動ドアに開いてもらえないことが結構あるんだけど影薄いのかしら。

質問者

会社の仕事に追われるサラリーマン。を装った、ある政治家の手の者。仕事を片付けたい焦燥感は特別なものではなく誰しも抱えていると思うなあ。

時代を嘆く声は一般的と言えるくらい多いのに、止められぬまま流されていく。自分のことでいっぱいいっぱいで、何か事件があってもテレビの向こうの出来事に思えてしまう。なんでだろうね。

雇い主の政治家先生は解散総選挙を心配するということで国会議員で、政府≒与党の有力者なのだとしたら、コイツが直接手下を使って口を封じようとすることは政府陰謀説の否定材料になるかもしれない。もし(一般私企業のショッピングモールでテロ実験を起こせるくらい有能な)政府が犯人だったら、こんな緩い処分の仕方ではなく退職時点でもっと徹底的に監視を付けて絶対に漏れないようにするような気がする。

事件

何度か出て来ていた陰謀論、政府の実験説が、相当な量の「真相」に触れ思考材料を揃えた組織の人から出ている。これ結構ショッキング。この運転手の人も本気で信じているわけではなく明言はできないと言っているが、結局、最初の方から明かされている形に落ち着く。万引きや液体のような同時多発のテロ的なしかし暴力や有毒性は無い行為がきっかけの、原因のない事件。という可能性がなんとなく確からしい。なんとまあ据わりの悪い。

質問者

この章の質問者ではなく、調査をしていた組織について。聞き取り対象がよくわからなくなった。この章ではPTSDの聞き取り調査、被害者やその関係者から聞き取ると言っている。もっと前の章では、そういう被害者や関係者からアンケートを取り、その中から選りすぐって特にもやもやした割り切れなさを抱いている人から聞き取っているイメージだった。回答者には普通に生活している人も多く、自分がなぜ選ばれたのか判然としない感じだったから。この章ではなんとなくもっと無作為に我武者羅に聞きまくる印象。さすがに別の団体ってことはないだろうけど、抽出した一つ一つの会話を注視するのではなくそれを何度も繰り返した質問者側の視点を通すとこんなに印象が変わるんだなあ。

 

 

 

恩田陸『Q&A』リアルタイム感想その8

恩田陸『Q&A』幻冬舎、2004

進度

ツアーの章とタクシーの章を読んだ。タクシーの章は次の記事に。

回答者

大学生。M周辺のツアーを案内する。もう三十回もやっている。元は旅行サークルで、今は東京の廃墟を歩く部会になっているらしい。

千円+交通費で一時間半くらい案内するということで、お商売として考えると破格、ほぼ完全にボランティアでやっている。ここがポイントで、サークル活動という趣味のためにマスコミのような仕事のビジネスの人でも案内しちゃう。事件や歴史を追体験したいモチベーションが趣味なんだね。事件現場なんかを歩くので質問者からすれば悪趣味。

読んでいる僕からしても、結構楽しそうに案内するから(回答者の方が質問者よりテンション高めというか興味ありげに聞こえた)若干複雑だなあと思っていた。心霊とか、マジで信じていたら自分からは近付かないんだよ。何か無い方が変と言うけど、この場合は犠牲者や当事者を忘れないためという大義名分は機能せず、むしろより残酷で鈍感に見える。でも、この大学生の言う落ち込んじゃう子っていうのの極地になると前章の救助隊員みたいに苦しんで狂ってしまう。人に迷惑かけていないからちゃんと個人の自由の範疇に収まってはいる。そういうマトモさにおげげッと感じたんだけどね。オチが秀逸で、結局両方ともすごく悪趣味で気が合うんだろうな。軽蔑してるけど、楽しんで本を読んでる僕も同じ穴の狢だな。

質問者

マスコミ関係。と見せかけて、コピーライターをやっていたが小説や映画で一発当てようとしている人。

人のことも事件のことも、舐めてんねコイツ。年上だからって初対面の人にため口きくし調べた資料を金で買おうとするし。大学生の人のことを少し悪しげに言ったけど、悪さでいえばこの人の方が酷いような気がする。好奇心があり利己心がない人と情熱はなくお商売に使おうとしている人、どちらがよくないかはなかなか比べにくいんだけど開き直り方ではこの一発当てようとしてる人の方が悪そうに感じる。でも常識はあるんだろうなという感じの話し方でなかなか聞き上手な気がする。あの組織に入って事件の質問者になったらいいのに。

インターネットの使い方に時代を感じる。今だったらMの事件の実態を皆撮影して拡散すると、書いたか書かなかったか覚えていないけど思っていた。当時でもバズりを狙うのに似た概念はあったんだね。ツアーの申し込みもホームページからで事件の情報を集めたサイトなんかがあって。心霊流行りそうな土壌でおもしろいなあ。

事件概要

事件については、今回も妙にリアルな人間社会を見せつけられた。周辺の人の動きとして、興味本位の私人が事件現場付近をうろついたりするようになるんだね。そしてお花を供えて祈るような人もやっぱりいる。あと新情報っぽいのは、Mの事件発生時刻は最初に客が逃げ出した時間で午後二時二十七分とされているらしいこと。犬がMを見てたというのはどこかで既出、でも死んじゃったとまではなかったかも。とはいえ噂なのでね、どこまで信用するかは。

他の章との関連

心のサロンの地蔵、建ってたね。時系列は章の並び通りであの心のサロンにあの記者が襲来した時よりも後。にしても、記事になっていないということは、あの友達のために心のサロンの主を責めた記者は……。そしてお地蔵さんも少女像みたいな感じということで、心のサロンの話はバッドエンドだなあ。

脚本家の章で出た携帯の電波の話とか、他の章を連想させる繋がりの多い章で短編集的な読み方をしている身からすると今回楽しかった。その分、もっと前の章の当事者たちの声が薄まっているような感覚は得てしまって、この大学生のこと好きじゃないなあと思えてしまう。

 

 

恩田陸『Q&A』リアルタイム感想その7

恩田陸『Q&A』幻冬舎、2004

進度

救助隊員の章を読んだ。のは一昨日なんだけどのんびりしていたら一日過ぎ、日付も超えていた。

回答者

救助隊員。妻、子供三人と暮らす。両親を亡くしていて、その時も別のクリニックに通った。

事件という特別な出来事によって日常こそが特別だと気付いてしまう、つらいね。以前は仕事が特別だと思っていて、家は日常に帰る場所だった。仕事:特別、家:日常と完全に切り換えるイメージ。その認識が、両親の死によって家の日常が失われることで崩れ、メンタルを壊してしまった。家の明かりを点けるのが怖いという特徴が、不調の例として好いし仕事と家の切り換えスイッチの象徴として合っていて上手い。両親の仕事や家での関わり、息子の名前などがさらっと出てくる感じがほんとに日常っぽくて自然だね。

Mは、他の章でも言及されていたように、日常生活で利用される普通のショッピングモール。だからこそ、理由の見つからない事件は当事者たちから日常の基盤を崩す。この事件の性質をやっと確信できた感じで、どうしようもなくやるせない。

この救助隊員の人は、日常こそがかけがえのない特別なもの(というとなんかいい意味っぽいけど)だとわかってしまったから家や家族と幸せに過ごすことが怖くなってしまったんだなあ。今幸せだということは、今より後の時間でその幸せを失いうる。それは何年後かもしれないし、今日かもしれない。常に失う恐怖に晒され続けたんだね。

我々を試す誰かについては、脚本家の章でも「誰か」という言い方で、大きい存在には地球は蜘蛛の巣に掛かってる砂粒みたいなもので、ある日払われてしまう、みたいなことを言っていた。今回はそれとまた少し違って、人間の殺し方を試行錯誤しているんだと。人類の歴史は新しい殺人と事故死を開発してきた歴史だって言われるとたしかにそうねえ。何の為に死ぬのか、現代人未来人特有のものが増えていく。人間を使って(パニックや連鎖反応で)人間を殺すやり方がMの事件だと。プログラムを走らせるときってなんとなくこんな気持ちでやってしまうかもしれない。壮大な話で付いて行きにくいけど、人間は現象に対して冗談でもいいから理由を仕組みを見つけたいのだなあと思う。名前が付いていないのはつらいという話と一緒。

質問者

クリニックの先生。救助隊員の人の治療をしている。質問をするというよりは、救助隊員の人が自分について話すのを促す役割。基本的に全肯定。何気に、Mの事件に完全に関係していない(本人も家族も友人も仕事も事件に関わっていないと思われ、自分から知ろうとしていない)初の人物かも。びっくりしただろうなあ、この章、この後どうなったんだろうなあ。

 

 

 

恩田陸『Q&A』リアルタイム感想その6

恩田陸『Q&A』幻冬舎、2004

進度

心のサロンの章を読んだ。今のところ1日1章ペース。

回答者

自宅を被害者が休める場所「心のサロン」として週三日開放している。田中徹也の章で監視カメラに写っていた女の子の母親。自分と娘と一緒にMに行った義母はあの日亡くなった。

序盤読みながらふーんって思ったのは、「連帯感」を強調しているけど悪い宗教にはちゃんと抵抗できること。危ういかと思ったらしっかりしてるなあというか。

事件については、脚本家の章でもあった、名前が付かないこと、原因が説明できないことのもやもやが関係者を苦しめることが被害者の口からも聞けた。「連絡会」と「被害者の会」が別々にあって、やはり事件の後も被害者は動き続けなくてはならない。この辺には素直に共感してつらいだろうと思った。このサロンの人がどういう人間でどんなに人を騙していても、被害者としてのつらい思いはほんとう。

で、今回も後半で隠された事情が明らかになる。人を騙してるんだね〜。行き着く先が娘をぬいぐるみにするような所業で言葉を失う。読み終わってすぐに読み返したら、最初にぬいぐるみのことを「今はほとんど私の、いえ、皆さんのもの」と言ってるんだね。上手いよ。お菓子や草木染め、売上は家主に行くのか持ってきた人に行くのか、どちらにせよ法律上あまりクリーンじゃないね多分。投資とかの儲け話は怖いなあ。ぶっちゃけ、こんなしっかり居を構えて金集めたら普通に逃げられないと思うんだけど、宗教法人立ち上げられるレベルまで洗脳できたらもうコイツの勝ちに近いだろうな。逃げられるように週三日なのかな。抱える苦しみは本物で感情のやり場は必要だから質が悪い。被害者の会ではミスったんだろうなあ、被害者の会がこのサロンの人が言うようなMからお金を取りたい人たちだとしたらなおさら見舞金は大事なお金だし、ね。

やり合いが凄いね、詭弁も詭弁なんだけど、気持ちだけはちゃんと頂戴したい。誤魔化そうとすることで本心を曝け出してしまう人、美しいね。コンプレックス丸出し。しかし本当に苦労していそう。生活費も子育ても介護も、一人で同時にやるしかなかった。詐欺や宗教で金を巻き上げていい理由にはならないけど。事件より前からとっくに自分を騙して生きている人間という感じ。

質問者

マスコミ系の人間。女性。サロンに取材に来た。デスクと言っているので、雑誌系かな?

温和に近付いてインタビューしつつ、物を売ってるところとか話題になっていて本尊になる予定のぬいぐるみとか、のっけからウィークポイントにジャブを入れている。利発そうな人。追い詰められたサロンの人がムキになったのは保身に加えて、自分より若くて賢い女が相手だから余計に許せないみたいな気持ちが、あったんでしょう。何より正しくいられることに勝る福音はない。サロンの人は加害者でもある人間が被害者になっただけなので、不幸自慢みたいで我ながら嫌な捉え方だけど被害者としての純粋性で他の人々とは連帯できないはずなんだ。そういう純粋な被害者の使徒として来たこの質問者は、サロンの人に効果バツグンだったんだろうな。

対談形式

前章から、名前のある関係者が回答して、調査している組織の何者かが質問する、という形式から離れた。脚本家とサロンの人の章では、なんていうかパワーバランスが対等になった。地の文の質問者側も主人公っぽさをもって自らの考えを話す。会話をしている感覚がこれまでより強い。

個人的に好みなのは以前までの回答者が語る形式、わくわくするから。でも、回答者の名前がなくなったことには意味があるように思う。これまでは、事件のあらましを傾聴することで、読者が質問者の立場で当事者になる段階。今は、世界の中の人物同士のやり取りを傍観することで、当事者となった読者がこのM事件のある世界、社会のあれこれを見る段階かな。普通の小説みたいに。といってもほんとにこのサロンの章までしか読んでいない時点の感想なので、次の章で普通にQ&A形式に戻る可能性も十分にあるのだけど。いつか戻るけどもう少しこの会話形式の章があるんじゃないかなー?と予想。

 

 

 

恩田陸『Q&A』リアルタイム感想その5

恩田陸『Q&A』幻冬舎、2004

回答者?

売れっ子脚本家、女性。既婚。Mに近いアパートの一室を学生時代から20年借りていてたまに仕事場にしている。

雑司ヶ谷の霊園ってそのまんま雑司ヶ谷霊園夏目漱石なのかな? 映画の具体例はいくつか出てくるけど文豪が誰かは忘れてるってなんとなく脚本家っぽい。仕事のしかたは、作者本人の実体験も踏まえてるんだろうなあ。なんでみんな脚本家になりたがるのかねえ楽しくないでしょおもしろいけど。

事件については、Mによって電波が遮断されていることくらいかな。笹原久芳の話でも気付かなかった近隣住民もいた気がするから、執筆中の脚本家が事件当日気付かなかったことはそれほど不自然ではない。この日に一話の最終稿?が上がったドラマがもうすぐ最終回の放映ということは、二クールか三クールか、結構な月日が流れていると思う。

前章の田中徹也が人間は現実の事件を愉しんでしまうという話だと解釈すると、今回はよりメタな、人間は事件を創作する、作者のような大きな力によって理不尽に人物の運命を決することができるという話にも見える。この脚本家が言うところの「見えないフィクション」なのだ。作者の思い付きで(忘却で)登場人物はあらゆる可能性を実現されてしまう。とはいえメタもサイコもやり尽くしているからね、それだけではない意味を探したくなるんだけど、うーんドラマの一話を書いた過程を具に示す意図がまだ掴みきれていない感覚。のちのちにわかってくるかな。

夢の白い家は、Mでもあるけど世界のイメージなんだよな。共感してしまう。それを目の前の友達に言っちゃうのどうなんだよって話ではあるけど、現実は空っぽな作り物で、自分しか生きていない。現代人に特有の感覚なのか、もっともっと古代からなのかもしれないけど、世界に自分しかいないと実感できる(現実を信じきれない)せちがらさがある。携帯電話で、いつでも他人・社会に繋がれているのにね。だからだね。

いやはや普通の会話で始まるのでびっくりした。

質問者?

他の章の質問者たちと同じ組織の人間だと思われるが明示されない。自分の仕事のことは話したがらない、寝不足。このお家で寝ちゃって次の日仕事行くのかな、何曜日かわかんないから休みかもしれないけど。ていうかそうか。あの事件の調査って、ボランティアとかではなくお給料の発生する仕事なんだ。普通に考えれば当たり前だけど、得体の知れなさから報酬と切り離してた。ドラマがハッピーエンドかどうかを気にしているのは、やっぱりMでの事件が幸せではないからなのかな。

恩田陸『Q&A』リアルタイム感想その4

恩田陸『Q&A』幻冬舎、2004

進度

昨日読まなくて、今日は田中徹也、脚本家の二章を読んだ。分けて投稿する。

田中徹也

三十九歳。Mの顧問弁護士チームの元一員。この人もまたよう喋ること。瞳は鏡、自分の見るものには感じていることが反映されるというか、田中徹也は出来事や自分への視線を自分の心内に突き付けてしまうような感じがした。真面目なのかな、真面目なやつは殺そうなんて思わないけど。根が正直者で罪悪感から逃れられないため自分の中の犯人要素を意識して勝手に犯人役を演じているね。質問者に対しては分析、把握が目的としか言っていないのに無感動な学術的な組織だと決めている。これは自分が顧問弁護士として事件からあくまで法的な、Mが有利になる材料を見つける立場だったから。無表情な目も自分たち顧問弁護士の作業として事件を事務的に処理する視線を反映しているのかも。殺そうとしていた人がこっちを見て笑ったと感じるのも、殺して笑う自分を見てしまったんだなあ。

去年911があったということで、事件の日は2002年2月11日で確定した。911にしてもこの事件にしても、惨事にスリルをもって夢中になり、次の事件が起こればそっちに向かい、当事者や事件のことを綺麗に忘れる。一億総マスゴミ。梨泰院の事件とかね、そうしたくないけどね。笠原久芳へのアンチテーゼでもあるのかな。そして田中徹也も、医学ノンフィクションを読むのが趣味で、下手なミステリーよりも面白いと明らかに実在の事件を愉しみとして消費している。こーれめちゃくちゃ上手いよなあ。結局自分から見た遠さの問題でしかなく、田中徹也自身が事件を娯楽として使い捨て忘れる人たちの一例として示される。リアルな事件の真相を探った記録たるこの『Q&A』に夢中になっている僕たち読者も……。

監視カメラの描写があることで客観的な(映像を主観的に見て主観的に語ったにすぎないが)情報が出てきた。麻生沙耶佳は可愛いんだね。もしそのことが彼女の不幸を呼び寄せているのだとしたらなんだかとても悲しい。他に言及されていた人では、三、四歳くらいの子供。この子が手に持ってひきずっていた赤っぽくて、だらりとしたものってやっぱりそうなのかな……。逃げている人は、無表情、外岡淑子も言ってた気がする。重要そうなのが、監視カメラを見ているかと思うくらいの高さの天井近くの何かに目を留めていた。エスカレーターでもないだろうから、何かがそこにあったんだ。あとは、やっぱり各フロアで何かが起こってるんだね。今だったら動画撮ってるだろうな。そう思うとこの作品、この世相でこの情報伝達社会でなければ成立しない。名作は、たとえば時代性のような必然性を帯びている気がする。

質問者

今回は男性。結構自分たちのことを話してくれる。何でも聞いてくるところは田中徹也の言うように十分誘導尋問だなあ。でも動揺してそうだったから悪意はなかっただろうけど。田中徹也が逆ギレして自白したとき、「なぜ」ではなく「どうやって」(物理的に無理でしょう)が先に出る辺り、事件の仕組みが知りたいというモチベーションが大きいような気がする。まあ動機も手段も同じようなものという気もするけど。最初に言ったように、犯人捜しではなく出来事の過程を把握したいんだね。

回答者

回答者の選出基準が興味深かった。自分の記憶の曖昧さに不安を感じていて、事件に無意識のうちに割り切れなさを感じている人物。自然と、Mでの事件に個人的な思いを抱えている人が選ばれる。まあ人間誰しも何かしら抱えているから、目立つ事件の当事者になった時に自分に対する何かしらの啓示とか報いとか考える人は多そうだけどね。特別な何かを見出そうとする気持ちは現実への割り切れなさの反映かな。