恩田陸『Q&A』リアルタイム感想その8

恩田陸『Q&A』幻冬舎、2004

進度

ツアーの章とタクシーの章を読んだ。タクシーの章は次の記事に。

回答者

大学生。M周辺のツアーを案内する。もう三十回もやっている。元は旅行サークルで、今は東京の廃墟を歩く部会になっているらしい。

千円+交通費で一時間半くらい案内するということで、お商売として考えると破格、ほぼ完全にボランティアでやっている。ここがポイントで、サークル活動という趣味のためにマスコミのような仕事のビジネスの人でも案内しちゃう。事件や歴史を追体験したいモチベーションが趣味なんだね。事件現場なんかを歩くので質問者からすれば悪趣味。

読んでいる僕からしても、結構楽しそうに案内するから(回答者の方が質問者よりテンション高めというか興味ありげに聞こえた)若干複雑だなあと思っていた。心霊とか、マジで信じていたら自分からは近付かないんだよ。何か無い方が変と言うけど、この場合は犠牲者や当事者を忘れないためという大義名分は機能せず、むしろより残酷で鈍感に見える。でも、この大学生の言う落ち込んじゃう子っていうのの極地になると前章の救助隊員みたいに苦しんで狂ってしまう。人に迷惑かけていないからちゃんと個人の自由の範疇に収まってはいる。そういうマトモさにおげげッと感じたんだけどね。オチが秀逸で、結局両方ともすごく悪趣味で気が合うんだろうな。軽蔑してるけど、楽しんで本を読んでる僕も同じ穴の狢だな。

質問者

マスコミ関係。と見せかけて、コピーライターをやっていたが小説や映画で一発当てようとしている人。

人のことも事件のことも、舐めてんねコイツ。年上だからって初対面の人にため口きくし調べた資料を金で買おうとするし。大学生の人のことを少し悪しげに言ったけど、悪さでいえばこの人の方が酷いような気がする。好奇心があり利己心がない人と情熱はなくお商売に使おうとしている人、どちらがよくないかはなかなか比べにくいんだけど開き直り方ではこの一発当てようとしてる人の方が悪そうに感じる。でも常識はあるんだろうなという感じの話し方でなかなか聞き上手な気がする。あの組織に入って事件の質問者になったらいいのに。

インターネットの使い方に時代を感じる。今だったらMの事件の実態を皆撮影して拡散すると、書いたか書かなかったか覚えていないけど思っていた。当時でもバズりを狙うのに似た概念はあったんだね。ツアーの申し込みもホームページからで事件の情報を集めたサイトなんかがあって。心霊流行りそうな土壌でおもしろいなあ。

事件概要

事件については、今回も妙にリアルな人間社会を見せつけられた。周辺の人の動きとして、興味本位の私人が事件現場付近をうろついたりするようになるんだね。そしてお花を供えて祈るような人もやっぱりいる。あと新情報っぽいのは、Mの事件発生時刻は最初に客が逃げ出した時間で午後二時二十七分とされているらしいこと。犬がMを見てたというのはどこかで既出、でも死んじゃったとまではなかったかも。とはいえ噂なのでね、どこまで信用するかは。

他の章との関連

心のサロンの地蔵、建ってたね。時系列は章の並び通りであの心のサロンにあの記者が襲来した時よりも後。にしても、記事になっていないということは、あの友達のために心のサロンの主を責めた記者は……。そしてお地蔵さんも少女像みたいな感じということで、心のサロンの話はバッドエンドだなあ。

脚本家の章で出た携帯の電波の話とか、他の章を連想させる繋がりの多い章で短編集的な読み方をしている身からすると今回楽しかった。その分、もっと前の章の当事者たちの声が薄まっているような感覚は得てしまって、この大学生のこと好きじゃないなあと思えてしまう。