恩田陸『Q&A』リアルタイム感想その2

恩田陸Q&A幻冬舎2004

進度

今日(昨日)は内田修造の章だけ読んだ。

内田修

七十一歳。元精密機器メーカー技術者。老人っぽいのが、若い者には自分の感覚はわからないだろうと認識している点。というか人の認知自体を経験していない当事者には共感不可能なものと捉えていそう。理系やね?前半でそういう違和感を持ったら、ちゃんと後半で個人的な事情が明かされた。すごい。

経験のあるなしに関わるようでいて実際は内田に限定されそうな特殊能力として、死の臭いがわかる。男が一階で液体を撒く直前に死の臭いを当日現場で感じた。でも、内田は当時、決定的に敗北感や憎しみを抱えていて、逃げた時の感想もそれらに方向付けられている。心のコンディションが悪い。『藪の中』みたいなもんで、証言は証言者のキャラクターが反映されるので、惨さが強調されていると考えた方がいいよなあ。お菓子は結局他のところで買って近所の人に説明したのかな。忘れてたって、不思議なんだけど……全員が信頼できない語り手であることが前提の作品だけど、妻が記憶が飛ぶということにわざわざ言及されたからには、各証言は何かしら飛んでいて不思議でない。

事件についてへえと思ったのは、前章の淑子が非常ベルを聞いてエスカレーターで三階に降りて階段を降りた。三階の人も既に逃げ始めていた。それに対して、内田はベルへの言及はなく、1階の階段を登ったら上からも人が来て、流され流され二階の入口近くに来た。放送は聞こえなかった。やっぱり少なくとも三階でも何か人が逃げるような何かが起こっている。他の出来事も、決定的に凶行ではない恐慌なのだろう。駄洒落を強行。

世代間の憎悪という話が出てきた。人物が名前、年齢、職業でキャラクターを伝えてくる以上、重要な情報だ。階層ごとに異なるものが売っている商業施設にいた種々の人々。社会的な世相や感情が反映されてこの事件のようなカタストロフィになったということなんだろう。

質問者

「私たち」「我々」という主語を使っていることに初めて気付いた。念書のサインは大事だね。でも口外させたくないのに真相を調べているって奇妙。冬季オリンピックがあったなんて話をしているので、本文の問答は事件発生時点よりもかなり後で、同じ年ではなさそう。事件発生は2002年か1998年かな?

他の章と同じ人物かはわからないが、内田修造と話した者は高齢者ではない。警察ではなさそうだけど警察と消防の調査に詳しい。液体の情報を漏らしてくるところで一気に怪しくなった。人の口に戸口は立てられない。誘導尋問的な、情報を統制することで事件のあらましを形づくっていけそうな感じがした。